長い月日を超えて現代に姿を残す「ミイラ」。このミイラとは一体どのようにして作られたのでしょうか?また、人体をミイラ化する意味とは何だったのでしょう?
今回はミイラの作り方や存在の意味、世界各国での在り方についてご紹介します。
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目次
ミイラ
ミイラとは
ミイラとは、生物の死体が乾燥することで腐敗分解されずに長期間その原型を留めたものを指す言葉です。水分が抜け枯れ果てているように見えることから「枯骸」と呼ばれることもあります。このように死体が長期間その形を留めている状態は「永久死体」とも呼ばれ、乾燥した状態のミイラの他にも湿潤環境下で稀に発生する死蝋なども存在します。
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日本語のミイラの語源は「ミルラ」という植物性の薬(ゴム樹脂)で、古くからミイラの防腐剤などに使われてきました。ミルラは薬としても使用されましたが、この薬と永遠の命を授ける効果があるといわれていた「ミイラの粉末薬」が混同されてミイラという呼び方が定着したのではないかといわれています。また、漢字の「木乃伊」は北京語で「ムーナイイー」と発音し音が近いことからミイラの当て字として使われるようになったといわれています。
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本来、人間などの動物が死ぬと細菌などの働きにより腐敗が進行し、やがては分解されてしまいます。しかし、腐敗が始まるよりも先に死体に含まれる水分が急速に失われると細菌の活動が弱まります。これにより死体がミイラ化するのです。また、体に含まれる水分が少ないことがミイラ化の条件のため、乾燥した地域などで脱水症状を起こして死亡した際には自然発生的に死体がミイラ化することがあります。
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しかし、死体が自然にミイラ化することは稀で、仮にミイラ化したとしても全身ではなく体の一部だけというケースがほとんどです。これは自然環境下でミイラ化するために必要な乾燥が3ヵ月ほどかかることが理由で、多くの死体はその前に水分の多い内臓が腐敗してしまいます。動物などによって内臓を食べられた場合などは腐敗せずに乾燥が進みミイラになるケースもあります。
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ミイラ取りがミイラになるの由来
日本には「ミイラ取りがミイラになる」ということわざが存在します。これは薬として高値で取引されていたミイラや一緒に埋められている財宝を狙って墓荒らしをおこなった人の多くが無事に帰って来なかったことから生まれたことわざで、他人を探しに行った人が同じく捜索される立場になることや、他人の行動を注意する立場の人間がいつの間にかその人と同じ行動をとっていることを表しています。
ミイラの墓荒らしが盛んにおこなわれたエジプトは過酷な砂漠地帯であったことが生存率の低さに関係していることが予想できます。墓の守護神として設置されていたスフィンクスについては関連記事で詳しくまとめています。
ミイラの作り方
自然発生的にミイラができる可能性は低く、現在確認されているミイラのほとんどは人為的に作られたものです。ここではミイラの作り方についてまとめています。
①エジプトミイラ作りの方法
ミイラ作りに最も精通していた古代エジプトではファラオ(王)は死後、下腹部を切開され理性が宿るとされていた心臓以外のすべての臓器を抽出されます。脳は鼻から鉤の付いた棒のような器具を挿入し、かき混ぜて液体状にして掻き出されます。その後、遺体から水分を抜くために体は70日間にわたってナトロン(天然の炭酸ナトリウム)に浸けられました。
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水分が抜けて乾燥した体は外気からの腐食を防ぐために何重にも布を巻かれ、取り出した臓器は「カノプス壺」と呼ばれる壺に収められます。カノプス壺は臓器によってすべて異なっており、肝臓を守る神としてイムセティ、肺を守る神としてハピ、胃をも守る神としてドゥアムトエフなど彫刻されていました。ファラオのミイラが埋葬されたピラミッドについては関連記事で詳しくまとめています。
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②即身仏
即身仏とは、仏教に伝わる修行のひとつで読経しながら絶命することでミイラになるという過酷なものです。これは「死は終わりではなく永遠の命を得ること」と悟る究極の修行で、「入定(にゅうじょう)」と呼ばれています。まず僧は米や麦などの穀物を一切絶ち、木の皮や木の実などの「木食」をすることで腐敗しやすい脂肪を激減させ筋肉組織なども糖に分解させます。また、毒性の強い漆の茶を飲むことで嘔吐を促しわずかに残された体内の水分をも吐き出したといいます。さらに漆の茶には抗菌作用もあり、死後に人体で細菌が繁殖することを防ぐ効果もありました。
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ミイラ化しやすい状態になった後、僧は生きたまま木箱に入り竹などで空気孔を確保した状態で地中に埋められます。地中では一切の飲み食いはなく、死ぬまで読経しながら鈴を鳴らし続けます。この鈴の音が止んだとき(つまりは死んだとき)に入定がなされたと周りが知るのです。鈴の音が止んでから1000日後、死体は掘り出され防腐処理されることで「即身仏」としてのミイラが完成します。即身仏となった僧は非常に徳が高いとされ、多くの人々から尊敬されることになりました。しかし、即身仏は明治以降に自殺を助ける行為として法律で禁止になっています。
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世界のミイラ
ミイラは世界中の文化の中に登場します。ここでは各国の文化とミイラの関係についてご紹介します。
①エジプトのミイラ
古代エジプトでのミイラの歴史は古く紀元前3500年頃には遺体の人口保存がおこなわれていました。エジプト神話に登場する神オシリスが妻のイシスや冥界の神アヌビスの助けによってミイラとして復活し冥界の王になったと伝えらえていることから、ミイラは来世や復活の象徴と信じられていました。
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エジプト神話を信仰する歴代のファラオたちは来世での復活のために自身のミイラ化を望みました。ミイラが発見されたツタンカーメンについては関連記事でまとめています。
関連記事:ツタンカーメンの呪いと死因!幼きファラオは何を見たのか?
②日本のミイラ
日本では仏教信仰の兼ね合いから先述した即身仏でのミイラ作りがおこなわれていました。エジプトなどの乾燥地帯に比べ日本は湿潤温暖な気候のため自然でのミイラ化は発生しにくいため、国内のミイラの多くは人工的に作られたものです。
また、日本では猿と魚の死体を組み合わせた「人魚のミイラ」など動物のミイラ化が盛んにおこなわれました。これらは海外にも拡散しコレクターの間で高値で取引されていました。日本産の改造ミイラには他にも河童、鬼、龍などが存在します。
③中国のミイラ
日本と同じく中国でも即身仏のミイラが作られてきました。それだけではなく現在でも即身仏が作られています。しかし、現在の入定は生きたままミイラ化するのではなく死後遺言によってミイラに加工されています。また、ミイラに加工する際に金箔を塗り付けることで体表面が崩れ落ちることを防いでいます。
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中国の即身仏は西暦298年頃から記録に残っており、「訶羅竭」という僧が火葬された際に完全に消失せずミイラ化したためこれを礼拝の対象にしたと伝えられています。中国は西域が乾燥地帯のため西部でミイラが発見されることが多く、楼蘭で発見された「楼蘭の美女」は世界的に有名です。
④インカ帝国のミイラ
南米のアンデス地方でも古くから死者をミイラに加工する風習がありました。アンデス地方のミイラは膝を胸部に付けて折り曲げるような恰好をさせることが特徴的です。加工の方法も変わっており、死者の内臓と筋肉を摘出し火力を使って体内の水分を乾燥させた後、膝を折らせた格好にして布を巻き付け、籠に入れた上からさらに布を巻きつけました。アンデス地方では紀元前200年以前からミイラの加工がおこなわれていたことがわかっており、インカ帝国が成立した後もそれは続きました。インカ帝国ではミイラを住居などに置き、生前と変わらず食事を供えて話しかけることで死者への愛情を示したといいます。
また、インカ帝国でおこなわれていた「死の儀式」の生贄になった巫女とみられる少女のミイラも発見されています。彼女は15歳ほどで非常に保存状態が良く、低温のアンデス山脈で凍結することで自然にミイラ化していました。「ラ・ドンチェラ(スペイン語で乙女)」と名付けられた少女の心臓には信じられないことに血液まで残っていました。ラ・ドンチェラの口には当時の気付け薬であるコカの葉が含まれており、死の恐怖から逃れるために大量摂取した結果、意識を失いそのまま眠るように凍死したと考えられています。
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世界一美しいミイラ ロザリア・ロンバルド
世界一美しいミイラといわれているロザリア・ロンバルドは、イタリアの聖ロザリア礼拝堂に安置されています。彼女は1920年に肺炎により2歳の若さでこの世を去りました。幼い娘の死に胸を痛めたイタリアの陸軍将軍マリオ・ロンバルドはロザリアをミイラにする決心をします。
彼女は全身の血液を抜かれ薬品で洗浄された後に天日干しで乾燥されました。ロザリアは内臓を摘出されておらず脂肪が蝋になる死蝋状態になることで生前の美しい姿が維持されています。また、将軍であった父がありとあらゆる薬品を使用させたことで脳、眼球、内蔵などが完璧に近い状態で保存されることになりました。
いかがでしたか?死体を加工したものであることから一般的に怖い、不気味と思われることも多いミイラですが、親族や周囲の人々の愛情や想いが込められて作られていたことがわかりました。死体をミイラ化することで本当に救われるのは当人ではなく残された人々だったのかも知れませんね。