そもそもハデスって何者?恋に奥手な冥王の意外過ぎる真実10

ハデス


映画作品などではゼウスの宿敵として描かれることの多い「冥府の神ハデス」。一般的に恐怖の対象であるはずの彼にはあまり知られていないかわいらしい一面がありました。
今回は冥王ハデスの可哀想な生い立ちと初心な恋愛模様をご紹介します。

 
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ハデス

①ハデスとは

ハデス(ハーデース)はギリシア神話に登場する神のひとりです。冥界を支配する「冥府の神」としても知られています。死に関連するためゼウスやポセイドンらが属する「オリュンポス十二神」には数えられていませんが、一部の神話ではハデスもこれに属するとされています。

ハデスとは?
画像:Jastrow

神々の中でも屈指の力を持ち、全知全能のゼウスや海と地震の神ポセイドンに近い能力を持っているといわれています。冥界に住んでいるため他の神々のようにオリュンポスに顔は出さず、地下に存在することから「豊穣の神」としても信仰されています。ハーデースやハーデスと呼ばれることもありますが、日本では「ハデス」と訳されることが多いようです。

 

②ハデスの能力

ハデスは冥界の王であるため、これまで死んだ全ての死者を使役することができるといわれています。ゼウスやポセイドンに並ぶ力を持ち、「隠れ兜」と呼ばれる被ると周囲に感知されなくなる神器を所持しています。ゼウス、ポセイドンらと協力して実父である宇宙の統治者「巨神王クロノス」を討ち取った際には、隠れ兜を被ったハデスがクロノスの武器を奪ったことで戦局が大きく動きました。

ハデスの能力
画像:yessipayne

巨人族と神々が宇宙の支配権をめぐって起こった大戦争「ギガントマキア」ではハデスは隠れ兜を「幸運と富の神ヘルメス」に貸し与えており、「英雄ペルセウス」もこの兜の力で「怪物メデューサ」を倒しています。ハデスはその他に二又の槍も武器としていました。強力な支配力と死を司る力でハデスは別名「最恐の神」と呼ばれています。最強の神「全知全能の神ゼウス」に関しては関連記事でもまとめています。

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③ハデスの性格

冥界を支配する冥王ハデスは冷酷で残虐な神として描かれることが多いようです。しかし、元々は純真な心の持ち主であり、恋をした女性へのアプローチが上手くいかず思い悩む姿も語られています。また、ハデスは非常に真面目な性格で、奔放すぎるゼウスに比べれば遥かに常識的な思考の持ち主であるとされています。

ハデスの性格
画像:okmusic

父クロノスを打倒後、ハデスはくじ引きによって冥界を支配、管理するようにゼウスに命じられてしまいます。ポセイドンが支配することになった大海に比べ、亡者に囲まれた冥界での暮らしが純真だったハデスの心を蝕んでいったのかも知れません。冥王になった後、ハデスは冷酷で残虐な神として恐れられるようになりました。こうした経緯からハデスはゼウスを嫌っていると解釈されることも多いようです。

 

④ハデスの家族

ハデスは「巨神族クロノス」と「大地の女神レア」との子であり、ゼウスとポセイドンの兄として産まれました。しかし、子どもに権力を奪われることを恐れた父クロノスによって生後直ぐに吞み込まれてしまいます。ポセイドンも同じ運命をたどりますが、母レアの画策によってゼウスだけがクロノスに呑まれることがありませんでした。

ハデスの家族
画像:Chaisey

その後、成長したゼウスによってポセイドンと共に助けられ、クロノス率いるタイタン神族との戦いに勝利します。しかし、クロノスから吐き出された順番によって兄弟の序列が入れ替わり、ゼウスとポセイドンの弟という扱いになってしまいました。冥界の支配者になって以降は神々が暮らしているオリュンポスには顔を出さず、ひとりで地下世界で生活することになってしまいます。「海神ポセイドン」に関しては関連記事でもまとめています。

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⑤ハデスの妻ペルセポネ

冥界の王として恐れられるハデスですが、彼も恋をしています。その相手はゼウスと豊穣神デメテルの娘「乙女ペルセポネ」でした。ゼウスの娘ということですからペルセポネはハデスの姪にあたります。ちなみに母であるデメテルはゼウスの実の姉です。若く美しいペルセポネに一目惚れをしたハデスは何とか彼女の気を引こうと悩み苦しみますが、奥手な彼には気の利いたアプローチは思いつきません。そこでペルセポネの父であるゼウスに直接求婚の許可を取りにいきました。するとゼウスはデメテルに相談もせずに結婚を許可してしまいます。

ハデスの妻ペルセポネー
画像:classofthetitans

ゼウスから許可をもらったハデスは花を摘んでいたペルセポネを「大地を割る」という神業で冥界に連れていきます。しかし、突然のことに事態を飲み込めないペルセポネは、地上へ帰りたいと泣いて悲しみました。ハデスは彼女を優しく慰め正式にプロポーズをしますが、彼女がそれを受け入れることはありませんでした。ハデスも彼女に対してそれ以上強引な行動がとれずに困り果ててしまいました。

ハデスとペルセポネー
画像:Rembrandt

その頃、娘が冥界に連れて行かれたことを知ったデメテルはゼウスにこの事を伝えに行きました。しかし、ゼウスの口から出たのは「冥王ハデスであればペルセポネの夫にぴったりだ」という言葉でした。一連の騒動がゼウスの差し金だと気付いたデメテルは激怒し、豊穣を司る力を放棄し世界中に不作と大飢饉を引き起こしました。大変なことになってしまいましたね。これに慌てたゼウスは先の約束を反故にし、ハデスにペルセポネを返すようにと命令しました。

デーメーテール
画像:emaze

これに落胆したのはハデスです。ハデスは地上に帰る前に一度で良いから自分と食事を共にして欲しいとペルセポネに哀願しました。冥界に来てから一切の食事を拒否していたペルセポネは、結婚こそ拒んではいたものの自分に優しく接し続けていたハデスの願いを聞き入れ、彼が差し出した「ザクロの実」を口にしました。しかし、ザクロは冥界の食べ物とされており、これを口にした者は冥界で暮らさなければならないという掟が存在したのです。ハデスに差し出された12粒のうち4粒を食べてしまったペルセポネは1年のうち4ヵ月は冥界で暮らさなければならなくなってしまいます。

ザクロを食べたペルセポネー
画像:Janaina Medeiros

 

⑥冥府の女王ペルセポネの誕生

冥界の食べ物であるザクロを口にしてしまったペルセポネについて、母であるデメテルはハデスによる陰謀であると「オリュンポス十二神」に抗議しました。しかし、オリュンポス十二神を取り仕切るゼウスはこれを許さず、掟に従ってザクロを食べた数だけ冥界に滞在するようにペルセポネに命じます。これを受けてペルセポネが不在になることを悲しんだデメテルは、彼女が冥界に滞在する4ヵ月のあいだは豊穣の神としての仕事を放棄しました。この期間が冬になったといわれています。また、冬が明けペルセポネが地上に戻った喜びから母の豊穣の力が満ち溢れ春ができました。こうして世界には「四季」が誕生したのです。このため春を呼ぶ娘のペルセポネは「春の女神」とも呼ばれています。

デーメーテールとペルセポネー
画像:Frederic Leighton

ゼウスの命令によって冥界での暮らしを余儀なくされたペルセポネは、結局ハデスと結婚することになってしまいました。しかし、ハデスに騙された形のペルセポネは結婚後も彼に心を開くことはありませんでした。そんな妻に対して優しく接し続けたハデスですが、愛のない生活に耐えきれず「森の精霊メンテ」と浮気をしてしまいます。これを知ったペルセポネは嫉妬に怒り狂い浮気相手のメンテを踏み潰し、草へと変えてしまいました。この呪われた草はその後「ミント」と呼ばれるようになります。

冥府の女王ペルセポネー
画像:arhstudioscollectibles

この出来事からペルセポネはハデスから受ける愛を快く思っていた自身の気持ちに気付き、ふたりは夫婦の絆を確かめ合ったのです。こうして「冥府の女王ペルセポネ」は誕生しました。ペルセポネはハデスが描かれる際にはその傍らに立ち、共に死者を裁く支配者の妃として恐れられるようになりました。

 

⑦ハデスとアスクレピオス

アスクレピオスはゼウスの息子「遠矢の神アポロン」とギリシア神話に登場する女性「コロニス」の子どもです。アスクレピオスはケンタウロス族の賢者「ケイロン」に育てられ、師のケイロンを超えるほどの医術の天才でした。最終的に彼は医術を極めることにより死者さえ蘇らせることに成功します。これに抗議したのが冥王ハデスです。

ハデスとアスクレーピオス
画像:GaudiBuendia

彼は冥府から使者が蘇ることは世界の秩序を乱すことであり危険だとゼウスに強く抗議しました。職務に真面目に向き合うハデスならではの逸話といえます。これをゼウスは聞き入れ、アスクレピオスを最強の武器「ケラウノス」で射殺してしまいます。しかし、同時にアスクレピオスの偉業を讃え、彼を「へびつかい座」として大宇宙に迎え入れました。ゼウスはいつもやることが極端ですね。

 

⑧ハデスとオルペウス

ギリシア神話に登場する吟遊詩人「オルペウス」の伝説にもハデスは登場しています。オルペウスの妻「エウリュディケ」が死んだ際、オルペウスは彼女を生き返らせるために自ら冥府の世界へと足を踏み入れます。彼が奏でる竪琴(たてごと)の音色は美しくも切なく、「冥界の河の渡し守カローン」や「番犬ケルベロス」でさえ涙を流してオルペウスを見逃しました。そして、ついにオルペウスは冥王ハデスの前にたどり着きます。

ハデスとオルペウス
画像:Edward Poynter

オルペウスはハデスとその妃ペルセポネの前で竪琴を奏で、愛するエウリュディケを返してくれるように哀願します。これに感動したペルセポネは夫ハデスを説得しました。竪琴の音とペルセポネの説得に心を動かされたハデスは、エウリュディケを返す代わりに冥界を出るまでは決して振り返ってその姿を見てはいけないという条件を提示します。オルペウスはこれを聞き入れ妻を後ろに引き連れて冥界の出口へと向かいますが、あと少しで事が済むというところで心配になり振り返って妻の姿を見てしまいました。その瞬間、妻の姿は消えてなくなりオルペウスの元へと返ってくることはありませんでした。

 

⑨ハデスとトリカブト

ギリシア神話に登場する半神半人の英雄「ヘラクレス」も冥府の世界に足を踏み入れたことがあります。ヘラクレスは冥王ハデスの許可をもらい、決して傷付けないという条件で地獄の番犬ケルベロスを生け捕りにしたことがありました。その際に、ペルセポネを誘拐しようとした罰で「忘却の椅子」に捕らえられていた「アナテイ王テセウス」とテセウスの盟友「ペイリトオス」も助け出しています。

ハデスとトリカブト
画像:gods-and-monsters

その後、地上に連れて行かれたケルベロスは太陽の光を浴びると急に発狂し、苦しみながら涎を垂らしたといいます。この涎が落ちた場所に毒草が芽を出し、後に「トリカブト」と呼ばれるようになりました。

 

⑩ハデスと冥界の神プルートー

ハデスは冥界に属する神であったことから信仰の対象にはならず、冥王の冷酷で無慈悲であるというイメージばかりが先行してしまいました。しかし、彼は神に愛された英雄にこそ冷酷であったものの、貧富や生まれなどの差別なく平等に死者を受け入れる寛容な神でもありました。

プルートー
画像:GenzoMan

また、冥界を意味する土中は地下資源の宝庫であったため、ハデスは「富める者(プルートーン)」とも呼ばれています。この名はローマ神話にも取り入れられ、冥王星の名前の由来にもなった「冥界神プルートー」のモデルになりました。

出典:wikipedia
画像:reddit

 

いかがでしたか?SF映画などではゼウスの敵として描かれ残酷で恐ろしいイメージの強いハデスですが、意外に常識人で心優しい一面を持っていたんですね。夫婦の恐妻家ぶりにも微笑ましいものがありました。